しらかわ読書会

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小西明日翔『春の呪い①』(一迅社・2016) 2018.05.24 23:30

小西明日翔春の呪い①』(一迅社・2016)

 ガンで死んだ妹「春」の彼氏「冬吾」と、付き合う女「夏美」の話。印象だけ述べると、暗い話だった。一人称的な物語でもある。夏美と冬吾とが、それぞれの相手のことを語りながら、春のことを思い出す構図になっている。
 
 1巻は4話で成り立つ。各話のタイトルは、「Spring is gone.」、「7月」、「8月」、「9月(前編)」。1話と4話は夏美による語り、2話は冬吾による語り、3話は三人称で進む。この作品には、丸い吹き出しによるセリフと四角い枠によるセリフがある。後者の枠は誰かに問いかけるものではない。心中の吐露とも別だ。それは、雲状の(専門用語があるのかもしれない)吹き出しで示されている。「誰か」に対して、語りかけているものとしておくよりほかない。漫画に一人称・三人称という用語は不似合いかもしれないが、便宜上、そう呼んでおく。3話のみが例外的に四角い枠による語りのない、三人称的な話になっている。
 人称の変化、語り手の変化が、どんな効果を与えているのか。それはこの話を最後まで読まないとわからない。ここでは、作品全体のタイトルの意味についてのみ、確認しておく。
 タイトルは「春の呪い」。英語訳が乗っていて、「Curse of Spring」となっている。不加算名詞という理解でいいのだろうか。邦題を考えると、季節の春として取って良いらしい。
 だが、作品を読むと、この「春」は登場人物の春を指すものらしい。
「……冬吾さん……」
 これは夏美の聞いた春の最後の言葉だ。夏美は「(頭から離れん……)」、「(呪いみたいだ…)」と心中を吐露している。
「この際呪いでもいい/春の声を忘れないでいられるならば」
 その上でこの「呪い」を肯定する語りをする。1巻を素直に呼んだ限りでは、タイトルの「春の呪い」は、この夏美の脳裏で繰り返し再生される、春の末期の言葉となる。ただ、タイトルの英訳が気になる。固有名詞になっておらず、あくまで季節の春として理解させようとしている。そうでなければ、季節の春に二重性を持たせた比喩となる。1話のタイトルも同様だ。2話が7月なのだから、過ぎ去った季節・春を示している。ただ内容としては、登場人物・春の死の経緯について、夏美が語る話になっている。
 このタイトルは、素直に読めない。季節としての春と登場人物・春と、双方を示すものとして、それぞれ意味を考えなければいけないだろう。